佐藤さんは甘くないっ!

震えそうな唇を噛んで、言葉を選んだ。

選んだけど、他に見付からなかった。

なんてシンプルな答えだろう。


「わたし、佐藤さんが好きなんです」


面食らったように目を丸くする宇佐野さんの顔が新鮮だった。

少し佐藤さんに似てるかもしれない。

予想通りの反応に苦しくなって、逃げるように微笑んだ。


「……でもわたし、大学生のときに別れたひとがいて、」


よくある話。

だけど、いくら考えても消化できない。

あのときわたしが勝手に離れなければ、別れなかったのかな。

違う方法があったんじゃないかと模索してしまう。

もう終わったことなのに。

わたしの中では、終わらせられない。

どうして過去はこんなにも綺麗に見えるんだろう。


「来月の頭に、彼と会うんです。理由は解りませんけど、向こうから連絡が来て」


優輝に会って復縁したいのかと言われればよく解らない。

解らないなんておかしいことだと思うけど、後悔が強くてもう自分でも手に負えない。

ただ、わたしの中にあるもやもやをなんとかしたい。

胸を張れない今のわたしに、佐藤さんと付き合う資格なんてない。


「だから、彼に会ってわたしのやましいところ失くしてからじゃないと、佐藤さんとは付き合えないんです」


やましいところ、なんて言ったら誤解があったかな。

そう思ったけど宇佐野さんの表情を見て安心した。


「柴ちゃん、馨のこと大好きじゃん」


その言葉に頬が熱くなった。

佐藤さんに告白されたときは優輝のことも頭になくて、ただびっくりした。

だけど恋愛のことを考え始めると、なぜか優輝の顔ばかり浮かんできて苦しかった。

佐藤さんのことが気になる自分。

優輝のことが気になる自分。

それなのに、自分の気持ちの在処は解ってる。

おかしな話だ。

だから、もうすぐ。もうすぐ全部、終わるから。
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