佐藤さんは甘くないっ!
宇佐野さんに御馳走になってしまい、わたしたちは会社に向かって歩き始めた。
9月ももうすぐ終わる。
10月8日は佐藤さんの誕生日。
つまり、告白の返事をする日。
優輝に会うのはその前にしなければいけない。
「そういえばさ、馨、三神のこと異常なくらい警戒してるでしょ」
「な、なんで解るんですか!?」
「あはは、見てれば解るってー」
宇佐野さんの観察力高すぎる。
今度から困ったら宇佐野さんに相談しようとこっそり決意する。
「さっき、電車一緒になるなら車両変えろとか言われて」
「っふ、それは、あいつ……くくっ…おもしろ……」
何故かまた笑いのツボにヒットしてしまったらしい。
道行く女性たちはイケメンが異常なまでに笑っているので、好奇の視線を向けてくる。
「そう言われてどう思ったの?」
「……さすがに言い過ぎじゃないかなって」
「柴ちゃんはさ、信用されてないみたいで嫌だったんじゃない?」
宇佐野さんの言葉がさくっと胸に刺さる。
ああ、なるほど。今思うとそうだったのかもしれない。
あのときは謎のもやもやを感じたけれど。
そっか……わたしのこと、信じて欲しかったのかな。
「ま、気持ちは解るけどさ。三神相手じゃ柴ちゃんが諦めないとね」
「三神くんが相手だと?え、どうしてですか?」
きょとんとした顔のわたしを、少し逡巡したように宇佐野さんが見つめる。
言おうかどうしようか迷っているように見えた。
……迷うような内容なのかな?
ちょうど赤信号になったため、立ち止まって縋るような視線を送った。
宇佐野さんは背が高いから必然的に上目遣いになってしまう。
「……柴ちゃん、絶対気にするからなぁ」
ここが会社の目の前の横断歩道だとは知らなかった。
正しくは、完全に忘れていた。