佐藤さんは甘くないっ!

綺麗に透き通った茶色い瞳が面白そうに歪んで、嫌な予感がした。

その正体は解らぬまま、腰を引き寄せられる。


「な、なんですか、宇佐野さん」

「まあまあ。ちょっと仕返ししてあげようかなって。逆効果になるかもだけど……ふふ」

「?佐藤さんの話ですか?」


話の流れがよく解らない。

とりあえず離して貰おうと思い身を捩ると、頬に手が添えられた。

宇佐野さんの唇が弧を描く。

何故かは解らないけど楽しそう、と無意識に思った。

そのまま整った顔が近付いてくる。

状況が呑み込めないまま硬直していると、ふわり、身体が浮いた。

……浮いた?


「宇佐野、てめぇ……殺すぞ」


低く低く地を這うような声音。

背後から抱きかかえられているのは解る。

……それが、誰にされているのかも。

地面に下ろされ、ぐるんっと勢いよく身体が反転させられた。


「さ、佐藤さん…!?」

「このクソ野郎に触らせてんじゃねえよ、馬鹿柴」


目の前には般若。いやそれ以上。

仕事でミスしたときの数百倍怖い顔で睨まれた。

脳味噌が追い付いてこない。

驚きすぎて固まっていると、宇佐野さんがけらけら笑っていた。

……解っててやったんだなこのひと。

さっきの楽しそうな笑みの正体を今になって理解する。


「柴ちゃんとキッシュ食べてきたんだよー羨ましい?」

「はあ?柴、キッシュくらい俺が食べさせてやるからこいつには着いて行くな」

「ちょ、まるでわたしが食べ物に釣られたみたいな言い方やめてください!」

「じゃあなんで一緒に昼飯なんか行ったんだよ」

「僕が誘ったからだよー」

「宇佐野殺す」


軽い足取りで逃げていく宇佐野さんを、本当に殺しかねない迫力で佐藤さんが追いかけていった。

それを後ろから眺めながら思わず笑みが零れる。

佐藤さん、妬いたのかな。

さっきとは違って嬉しいような恥ずかしいような気分になり、わたしも二人の後に続いた。
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