佐藤さんは甘くないっ!

歓迎会は会社のわりと近くの居酒屋で開かれた。

毎年お店選びは部署毎に回っており、今年は宇佐野さんの担当だったらしい。

さすがイケメンは良いお店を知っている。

去年と費用はさして変わらないのにお店のグレードはとても高かった。

歓迎会に向かうわたしの足取りは、たぶん今まで一番軽い。

部署を出るとき一応佐藤さんを窺ってみたけれど、わたしのことを一瞥もせずにさっさと帰ってしまった。

お疲れさまでしたというタイミングさえ見付からなかった。

……宇佐野さんとランチしたことまだ根にもってるのかな。

あの件にはさぞ御立腹だったようで、仕事中も拗ねているのがさすがのわたしでも解った。

そんなことには気付きたくなかったけど。

今日になってもまだ怒っているのか……相手が宇佐野さんなのにどうしてそこまで。


「柴ちゃん、一緒にいこー」

「は……はい」


宇佐野さんはそんなこと気にも留めていないのか、寧ろ楽しんでいるのか、あの日からやたらと話し掛けてくる。

またしても女子社員の視線と言う名の槍が突き刺さったけど気にしたら負けだ。

三神くんも誘い、集合時間に間に合うように会社を出た。

心のどこかで佐藤さんが気になる自分がいた。

……もう一度だけ誘えばよかったかな。

どうせ断られていただろうけど、佐藤さんがいればずっとお話しできたのに。

他の部署のひとと積極的に交流するような方ではないので、きっとそうなるだろうと予想ができた。

あーあ。

軽くなったはずの足取りが不自然に重くなる。

そんなわたしの表情を見て、宇佐野さんが小さく笑った気配がした。

三神くんはずっと黙ったまま何か小さな缶ジュースのようなものを飲んでいた。

佐藤さんのばか。

わたしも行くんだから、今年くらい参加してくれてもいいのに。

あんなに三神くんや宇佐野さんと一緒だと怒るくせに。

今度はわたしが拗ねてどうするんだと、もうひとりのわたしが呆れ笑いを零した。
< 132 / 291 >

この作品をシェア

pagetop