佐藤さんは甘くないっ!

憐みの気持ちでいっぱいになっていると、三神くんはピッチャーで置かれたビールをそこから直に飲み始めていた。

見た目の問題以前にあまりよろしい飲み方ではないので、やんわりとその腕を引く。


「三神くん、ちょっと休憩しようよ。ご飯も食べてないのにそんな飲んだら回っちゃうよ」


どう考えても、既に三周くらい回っているんだけど。

こんな風に酔っ払ったひとを見るのは初めてではないので、たいして驚きはしない。

どちらかと言わなくとも介抱してあげる側なので慣れている。

一瞬嬉しそうな顔をした三神くんは、すぐに頬を膨らませてわたしを睨み付けた。


「しばせんぱいはぁ、らまっててくらさい!」


特に呂律が回らないのは“だ”の行らしい。

わたしの制止を払いのけてピッチャーのビールを流し込む三神くんはいつもと何か違った。

というか色々違うのは当然なのだけど、なんていうか、いつもは隠している表情が明らかになっているようだった。

いつの間にかピッチャーの中身は半分になっている。

吐かなきゃ良いんだけどなぁ……止めても無駄そうなので、このピッチャーまでは目を瞑ろうと思う。

さっさと寝てくれたら楽なのに、まだまだ彼のテンションは上がっていく予感がする。

そして予想通り高野くんは帰ってこない。

どこかで首でも吊ってなきゃ良いんだけどな、と心の中でひとり笑う。


こうなったら今日はとことん三神くんに付き合ってあげよう。

お酒飲めないから歓迎会も乗り気じゃなくて、さっき飲んでたのはたぶんウコンか何かなんだろう。

強制じゃないんだからビール断れば良いのに。

彼のプライドが邪魔をしたのかもしれないが、これは中々の醜態なので気を付けた方が良い。

明日にでもそうアドバイスをしてあげよう。


「だいたい!しばせんぱいは!ずるいんれすよおお!」

「わたし?何がずるいの?」

「しごとがれきて、きれいれ、かっこよくてぇええ」


最早なんて言っているのかよく聞き取れないけど、とりあえず相槌を打つ。
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