佐藤さんは甘くないっ!

面白がって寄ってくる先輩方がいるかと思ったけど、皆それぞれのテーブルで盛り上がっていて誰もこちらにはやってこない。

あまり言い触らされると明日から三神くんの肩身が狭くなりそうなので、さすがにそれは可哀そうだ。

高野くんの唇を奪ったことなんて墓場までもっていくレベルの秘密じゃないだろうか…。


「きーてますかぁ!しばせんぱあい!」

「うんうん、聞いてるよ」

「しばせんぱいはぁ、とてもおとなっぽいのに…ぼくはぜんぜんっ…うっ…」


今度は泣き上戸が入ってきたのか、三神くんは気付けば涙目になっている。

大人っぽいなんて久しく言われてない言葉だ。

どこらへんがそう見えるんだろう。

でもそんなこと本人に聞けそうな状況ではない。


「あー三神くん、ここの串もの美味しいよ。ほら食べてみて」

「……ぐすっ…あい……おいしいれす……」


わたしが手渡した玉葱と豚肉の串をもきゅもきゅと頬張る三神くんは小動物のようだ。

あまりご飯を食べすぎても嘔吐の原因になるので、様子を見計らいながらご飯を勧める。

今日佐藤さんが来なくて良かったなーと改めて思った。

三神くんの弱みを握ったとばかりに喜びそうだし、あの黒い微笑でカメラのシャッターを切りそうだ。

さすが鬼畜……全部わたしの勝手な想像なんだけど。

でも今頃、ひとりであの部屋にいるんだろうか。

またクラシックを流して、お酒と簡単な料理でもつまんで。

……何を考えているのかな。

わたしはこんなときでも佐藤さんのことを考えている。

ついこの間まで佐藤さんのことが嫌いだと言っていて、恋愛対象なんかじゃなかったのに。

自分でも驚いてしまうほど、容易く気持ちが解かれていく。

まるでこの2年間ずっと佐藤さんのことが好きだったように。

長い間降り積もっていた想いがやっと報われたかのように。


「……そのかお、むかつきます」

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