佐藤さんは甘くないっ!

……え?


澄んだ声音に意識が引き戻される。

気付けば、体温の上がった指先がわたしに触れていた。

熱がじわりじわりと移るようで、自然と頬が熱をもつ。

三神くんは潤んだ瞳でわたしをまっすぐ見つめていた。

時が止まったような感覚がして呼吸を忘れそうになる。


「みかみ、くん?」


彼は酔っ払いだ。解ってる。

なのにどうして、こんなに真摯な眼差しをぶつけてくるんだろう。

心臓が煩いのは気の所為じゃない。


「……しばせんぱい、こっちみて」

「み、てるよ。ほら…」

「ちがう。みてない。……ぜんぜん」


強い言葉と共に、無防備なわたしの腕の上に指を、掌を滑らせる。

彼に触れられた場所がどんどん熱くなっていく。

慈しむようにわたしの手を撫でるその指は、何を考えているんだろう。

堪えきれなくなって彼の名前を紡ごうとした。


「……みかっ、」


瞬間、息を呑む。

三神くんは流れるような動きで、手の甲にそっと口付けた。

突然のことに思考が停止する。

上目遣いでわたしを窺った三神くんは紅い舌を覗かせて、口角を上げた。


「やっと、みてくれた」


呂律が回っていないような、舌っ足らずな言葉なのに。

酔っ払ってるからだって、頭では解ってるのに。

どうしてわたしの心臓はこんなにもどきどきしているんだろう。

満足そうな笑みを浮かべる三神くんは、何を思ったのかべろりと甲を舐め上げた。

悲鳴を上げそうになったのをどうにか堪えると、気を良くしたように再び舌が這う。

振り払いたいのに強く掴んだ彼の手がそれを許さない。

手の甲から次第に指の間、指先へと熱が移る。

そして、ちゅ、と軽い音を立てて三神くんの唇が離れた。

たった数秒の出来事だったのに、それはわたしを赤面させるには十分すぎる刺激だった。
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