佐藤さんは甘くないっ!
なんかどっと疲れた…。
渇いた咽喉をお酒で潤しながら、ぱたぱたと手で風を送った。
暑い、暑い、……熱い。
お酒の所為か体温の高い三神くんの熱が膝から全身に巡ってくる。
ちらりと視線を落とすと、彼はこちらの気も知らないで心地良さそうに目を閉じていた。
……男の人に膝枕なんてしたことないんだから。たぶん。
口に出せない文句を仕方なくお酒と一緒に飲み干す。
普段なら絶対に回らないペースなのに、なぜか一瞬頭がくらりとした。
グラスがひんやりと冷たくて気持ちいい。
掌から少しずつわたしの熱を奪ってくれる。
冷静さを、取り戻させてくれる。
「あっつ……」
自分の頬が赤いのは鏡を見なくても解った。
考えたくないのにさっきの三神くんの表情が何度もリフレインする。
あんな顔知らないよ。なんであんな顔するの。
……舌が這う感触なんて早々忘れられない。
佐藤さんへの罪悪感のような、何とも言えない感情が心を占める。
浮気した訳でもないのに……なんだろう……ものすごく、イケナイコトをしたような…。
宇佐野さんとランチしたときはこんな気持ちにならなかった。
だから佐藤さんが拗ねるのもよく解らなくて、いつまでも怒らなくても、って思ったけど。
今回のことは知られたくないと、知られたらまずいと、なんとなく感じていた。
「しばせんぱい……」
落ち着き始めた心臓がまた飛び跳ねてしまいそうだった。
相手が酔っ払いだと解っているのに平静を装う。
「ど、どうしたの、三神くん」
……全然、装えてないけど。
正直動揺しまくりなんだけど。
ていうかあれ、なんか三神くんの顔色悪くない?
さっきまでのはしゃぎようが嘘のように静かになったとは思ったけど。
まさか、まさか。
「……ぎもぢわるいれず……」
人の膝で吐くのだけはやめてくれと、声にならない叫びで懇願した。