佐藤さんは甘くないっ!
このスーツは二度と履けなくなるかもしれない、と覚悟したところで、よろよろと三神くんが起き上がった。
顔色はやはり良くないが、瞳の色はしっかりしている。
今すぐ吐きそうなのかと思いきや、この様子だとそうでもないらしい。
良かった……本当に良かった……。
膝上でリバースされた経験はさすがになかったので、正直なところ心底安心した。
三神くんはわたしが持ってきたお水を一気に流し込むと、気まずそうにわたしの腕をそっと引いた。
なんとなく酔いが醒めてきたらしい。
「そとのくうき、すってもいいですか……」
久しぶりに呂律の回った言葉を聞いた気がした。
申し訳なさそうに項垂れる三神くんの頭を思わず撫でて、いいよと返事をした。
さっきまでのもやもやは吹き飛んでしまい、今はただ三神くんのことが心配だった。
「はー…もう風が気持ち良いねぇ」
ついこの間まで蒸し暑かったが、もう夜風が気持ちいい季節になっていた。
念のため自分と三神くんの荷物も持ってお店を出る。
お開きの時間までまだ少しあるが、もし三神くんの気分が優れないままなら送り届けようと思っていた。
女の子に囲まれていて近付きにくかったので、宇佐野さんには一応メールを入れておいた。
三神くんが気分を悪くしてしまったので外にいます、という簡素な内容だけど。
ふらふらしている三神くんの腕を引きながら、お店の向かいにあった公園のベンチに腰かけた。
三神くんは座っているのもつらいのか、すぐに横になってしまう。
わたしは自販機で水を2本買い、ベンチに戻った。
仰向けになり、腕で顔を隠している三神くんがなんだか小さく見える。
身体は大きいのでベンチから余裕ではみ出しているのだけど。
「三神くん、お水飲める?」
「…………ほんとうに、すみませんでした」
だ行は発音できているけど、まだ少し舌っ足らずな話し方だった。
そして会話になっていない。
思わず笑い声を零すと、三神くんはさらに小さくなってしまった。