佐藤さんは甘くないっ!

怒られるのが解っていて怯えている子犬のようだった。

わたしは怒るつもりなんてさらさらないのに。

ばかだなあ、もう。


「そんなことは良いから、とりあえずお水飲んで、ね」

「……ありがとうございます」


のろのろと起き上がった三神くんはわたしからペットボトルを受け取り、ごくごくと咽喉を鳴らした。

アルコールの所為で咽喉が渇いていたようで、あっという間に空になってしまった。

いきなり飲みすぎて気持ち悪くなったらどうしようかと今更心配になったが、三神くんの顔色はさっきよりましになっている。

もう飲めないかもしれないと思いつつ2本目の水を手渡すと、冷たさを求めるように首筋に押し当てていた。


「冷たいの気持ちいい?ならもう1本買って…」


そう言って再び自販機に向かおうとすると、三神くんがそれを制止した。

無言で腕を引っ張るので、促されるようにベンチに腰を下ろす。

お水要らないのかな?飲まなくても別に良いんだけど…。

どうしようかと考えていたら、右肩にずしりとした重みがやってきた。

柔らかい黒髪が頬をくすぐり、それが三神くんの頭だとすぐに解った。

座っているのがつらいならわたしが立つのに……どうして座らせたんだろう。

酔いが醒めて恥ずかしくなったのか、膝枕を要求してこないところがまたおかしかった。

さっきまであんなやりたい放題だったのにね。


「……三神くん、重たいよ」

「ごめんなさい」

「……ばかなんだから」

「……しってます」

「座ってるのつらいんでしょ……もう」


今日だけは三神くんにサービスしてあげようじゃないか。

誰に対する言い訳なのか、わたしはそんなことを考えながらくるりと身体を反転させた。

支えがなくなったことで重力に従い、膝の上にぽすんと頭がやってくる。

三神くんは目を見開いて固まっていた。
< 141 / 291 >

この作品をシェア

pagetop