佐藤さんは甘くないっ!
弟ができたような、そんな不思議な気分に駆られていた。
普段は仕事ができてしっかり者で、全く手の掛からない後輩・三神くん。
だけど今日は酔い潰れるまでお酒を飲んだ手の掛かる後輩・三神くん。
どちらも同じ三神くんだとは思えないほどの変わり様だった。
頻繁にぶっ壊れるのはさすがに困るけど、一年に一回くらいならこんな三神くんも面白いかもしれない。
膝枕の所為で耳まで赤くなった三神くんの頭を撫でながら、そんなことを思っていた。
「……しばせんぱいは、やさしいですね」
宙に放り投げられたような、どこかやり場のない声だった。
どう返したら良いのかわからなくなり、一瞬言葉に詰まる。
沈黙に飲まれてはいけない気がして、無駄に明るい声を出した。
「そりゃあ大事な後輩だからね!放っておけないよ。」
「……赤の他人だとしても、柴先輩は優しいよ」
急に透き通った声になった。
そして、その言葉から感じる揺るぎない自信。
なんだろう。この既視感。
「柴先輩はきっと覚えてないよね」
どきどきと、心臓が鳴る。
小さな既視感が積もっていく。
だけど、思い出せない。
「2年前、僕と初めて会ったときのこと」
2年前?
三神くんが入社する前に、会ってた?
計算すると当時の三神くんは大学3年生の半ばくらい。
わたしは入社して半年が経った頃だ。
……申し訳ないけど、全く覚えていなかった。
ぐるぐる考えていると、まだ少し熱をもった掌がわたしの頬に触れた。
目を逸らすことができなくて、否応なく視線が絡む。
三神くんに見上げられているなんておかしな気分だ。
なぜか心臓が軋む音がした。
「柴先輩に助けられるのは、二度目なんだよ」