佐藤さんは甘くないっ!
頬を撫でる指先が、するりと髪に絡んだ。
「……短いのも似合うね」
2年前―――わたしの髪はまだ長かった。
その言葉が鍵となるように、少しずつ記憶の紐が解けていく。
お酒。酔っ払い。潰れた男の子。
ひょろっとした身体。丸っこい瞳。つんつん髪。
「……も…しかして……“金髪くん”?」
口にしてから、まさかと思った。
そういえば入社してから酔い潰れた男の子を助けたことがあったけど。
目の前にいる三神くんと、そのときの男の子はまるで別人だった。
雰囲気も髪型も髪色も。
「……懐かしいね、それ。あのときは友達と飲みに行った帰りだった」
小さな笑い声に呼応して、鮮やかに記憶が色付く。
見た目のあちこちは確かに違うけれど、過去と現在が重なっていく。
三神くんは静かに瞼を下ろした。
「友達は就活就活って、なんか張り切っちゃってて。授業もろくに出てないバカばっかりなのに。そのとき僕はやりたいことが特になくて、あいつらがすっごく目障りだった」
それを聞くのは多分二度目だった。
だけど初めて聞くような気持ちで、棘のある言葉が不思議なくらい柔らかくわたしに触れる。
「夢があることってそんなに偉いわけ?って、イライラしてた。あいつら久しぶりに飲みに行ったのに就職の話しかしなくて。僕だけ取り残されてるみたいで。飲めないくせに、死ぬほど酒を飲んだよ。」