佐藤さんは甘くないっ!

暫くベンチの横でしゃがんで彼の様子を窺っていると、不意に彼が手を伸ばした。

びっくりして固まっていると、わたしの手を掴んで自分の頬に押し当てた。


「……冷たくて、きもちいい」


どこか微睡んでいるような口調だった。

子供が駄々をこねているような、甘えているような、そんな感じがした。

よく見ると顔はなんだか幼く見えた。

きっとそんなに歳は変わらないのだろうけど、なんだかあどけなかった。


「ねえ、今日、なにがあったの?」


言いたくなかったら良いよ、そう付け加えようとしたけど、わたしの手を握る彼の力が強くなったので、その言葉を紡ぐのはやめた。

余計な言葉は要らないんだとなんとなく思った。

彼は自分の将来が見えないこと、ヤケ酒をしたこと、友達が妬ましいこと、順序はぐちゃぐちゃだったけど、わたしに伝えようと頑張って言葉を選んでいた。

話し終えた彼は苦しそうな、泣きそうな顔をしていた。

こんな話を初対面のわたしにするくらい弱っていて、少しお酒の力が手伝ったのかもしれない。


「……それでさっき、」

「お姉さんはどんな仕事してんの?楽しい?後悔してない?辞めたくならない?」


矢継ぎ早に問い掛けられる。

それだけ彼の不安が大きいのだと感じていた。

なんて言ったら彼の背中を押せるのかは解らなかったが、わたしが自信をもって言えることはひとつだった。


「あのね、上司のあだ名が鬼畜シュガーなの。命名わたし。」


彼は邪気の抜けたような、ぽかんとした顔でわたしを見ていた。
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