佐藤さんは甘くないっ!
「そんな上司に出会えたわたしは、きっと幸せ者だと思う。だから負けたくないし、明日も頑張ろうって思えるんだ。人間としては鬼畜シュガーみたいなひと、大っ嫌いなんだけどね!仕事の上でだけ、本当に尊敬できるひとだから!」
わたしが最後の部分に力を込めて言うと、彼は堪えきれなくなったように吹き出した。
予想外の反応に目を見開く。
そして笑顔があまりにも眩しくて、二重の意味でびっくりした。
「なにそれっ……お姉さんMなの?苛めれたいなんてっ……あはは……!」
目尻に涙を溜めて笑う彼を見ていたらほっとした。
……良かった。なにかひとつでも、伝わったかもしれない。
わたしなんかの意見じゃ参考にならないと思うけど。
ひととの出会いは本当に奇跡的なもので、それがどんな影響を及ぼすのか誰にもわからない。
最悪だと思った上司に出会えたことで、わたしは仕事の楽しさを知ることができた。
どんな上司かなんて会社に入ってみるまで解らないことだけど、物は考えようとはまさにこのことだ。
相手がどんなひとであれ、自分が成長する糧にしてしまえばいい。
「……僕、お姉さんと同じ会社に就職したい。」
「えっ」
「そんなすごい上司がいるなら僕も会ってみたい。それから……お姉さんみたいなひとがいる場所で働きたい。動機が不純すぎるかな?」
子供っぽい笑顔を見せる彼は、さっきまでの泥酔大学生ではなかった。
胸の奥がじんわりと暖かくなって、わたしも笑みを返した。
「待ってるからいつでもおいで、金髪くん」
「それまでクビにならないでよ、お姉さん」
「なっ!」
金髪くんがどんな会社に就職してもきっと上手くやっていけるだろうと、わたしは確信した。
それはまだ夏の香りが僅かに残る、9月のことだった―――