佐藤さんは甘くないっ!

死を覚悟した瞬間、頭にぽんと柔らかい衝撃がやってきた。

あまりにも優しいそれは寧ろ接触、というべきで。

すぐにそれが佐藤さんの大きい掌だと解った。

予想外の展開に目を見張ると、何故か佐藤さんも同じ表情をしていた。

え、なんで…。

言葉が口を出るより早く、佐藤さんに腕を引かれてどこかの部屋に引き摺り込まれた。

ごとんとペットボトルが床に転がる音がした。

部屋は少し埃っぽく、カーテンも閉まっているため真っ暗で何も見えない。

ていうか、会社!何度も言ってますけど、ここは会社ですよ佐藤さん!

こんなところ誰かに見られたらどうするんですか!

そんなお決まりの言葉は、するんと咽喉の奥に流れて行ってしまった。

部屋に入るなりわたしをぎゅうっと抱きしめる佐藤さんの力強さにびっくりして、何も言えなくなってしまう。


「さ、佐藤さん……?」


静寂に不安になって名前を呼ぶと、更にぎゅうぎゅうと内臓が飛び出るんじゃないかというくらい抱き締められる。

わたしも恐る恐る背中に手を回すと嬉しそうな気配が伝わってきた。

佐藤さんに触れているだけで、さっきまでのごちゃごちゃした気持ちが晴れていく。

ああ、佐藤さん不足だったんだ、と改めて思った。

暫く抱き合っていたが、ゆっくり身体を離して佐藤さんの表情を窺うと、何とも表し難い顔をしていた。

拗ねているような、悔しそうな、だけど少し嬉しそう。

口角は下がっているのに、纏っている雰囲気はプライベートで会うときのような柔らかいものだった。


「……柴に会えたのが嬉しくて、廊下なのに思わず撫でてしまった」


恥ずかしそうに言う佐藤さんが愛おしくて、今度はわたしから抱き付いた。
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