佐藤さんは甘くないっ!

まさかわたしから飛びついてくるとは思っていなかったのか、佐藤さんは慌ててわたしを抱き留めた。

さっきまであんなにぎゅうぎゅう抱き締めてきたくせに、今は何故かぎこちない。

照れている佐藤さんが可愛くて、胸の中が温かいものでいっぱいになった。


「だからさっき、佐藤さんもびっくりしてたんですね」

「煩い……誰かに見られたら困るだろ」

「部屋に入れば大丈夫なんですか?」


笑いながら問い掛けると、にやりと悪魔の笑みが返ってきた。

嫌な予感がして背筋が冷たく凍る。

…しまった。可愛いからっていじりすぎた。


「さとっ……」


口を開いた瞬間、好機と言わんばかりに舌が捻じ込まれた。

んむ、とくぐもった声が零れる。

だから、こういうことは、まだだめだって。

そんな抵抗は唾液と混ざり合って、判断力までどろどろに溶かしてしまった。

熱い吐息の所為で頭がおかしくなる。

佐藤さんは顔を真っ赤にしたわたしを満足そうに見下ろすと、転がっていたペットボトルを拾い上げた。


「何を悩んでるのか知らないけど、元気出たな」


ああもう……佐藤さんには敵わない。

解ってたことだけど、改めてそれを突き付けられた気がした。

そして何も聞かない佐藤さんの優しさが痛くて、苦しかった。
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