佐藤さんは甘くないっ!
物わかりが良すぎる、なんてわたしが言う資格はないのに。
寧ろそうしてくれた方がラッキーなのに、どうして心苦しいんだろう。
会社にいることを忘れてしまうくらい佐藤さんの目が優しい。
わたしの頭を撫でてくれる手が優しい。
全部全部優しくて、真綿で首を絞められているようだった。
「昨日の歓迎会はどうだったんだ」
「た、楽しかったですよ。でもお酒は控え目にしました」
「ザルだってばれるもんな」
口角を少しだけ上げて笑う佐藤さんは、完全にオフモードだった。
仕事中にこんな顔をするなんて本当に珍しい。
……わたしが落ち込んでいたから、そうしてくれてるのかな。
わたしたちの関係が会社にばれても良いと佐藤さんは言っているけど、ちゃんと胸を張って付き合っていると言えるまでは公表したくなかった。
だから人前で佐藤さんはわたしに恋人の顔をしないし、前回の資料室の一件以来は、二人で話したいことがあるとき以外はわざわざ社内のどこかで会ったりしなかった。
今日は本当に特別。
それがとても嬉しい反面、やっぱり苦しい。
どこまでも佐藤さんの優しさが広がっていて、今にも窒息死してしまいそうだ。
「泣きそうな顔だな」
大きな掌がそっと頬に触れて、慈しむような視線がわたしに降り注ぐ。
佐藤さんにこれ以上嘘を吐くことはできないと自分が一番解っていた。
いつも真摯に向き合ってくれる佐藤さんに、隠し事はもうできない。