佐藤さんは甘くないっ!
状況が呑み込めないし、第一理解したくない。
すると優しく肩をぽんっと叩かれた。
泣きそうな表情で振り向くと、ふわふわの茶髪を揺らした優しそうなひとが困った顔で立っている。
さっき紹介されたから顔と名前はすぐに一致した。
「う、宇佐野さん……」
確か自己紹介のときに佐藤さんと同期で仲が良いって言ってたような。
因みに佐藤さんはそのときも何故か席を外しており、さっきの衝撃的なやり取りが実質的初対面だった。
宇佐野さんはたれ目が印象的で、失礼ながら佐藤さんには及ばないけどかっこいい。
「いきなりでびっくりしたでしょ、ごめんね。馨……佐藤って悪いやつじゃないんだけど…ちょっとばかり横暴で傍若無人で自分勝手っていうか」
ぜ、全部同じような意味ですし!
なんのフォローにもなっていませんけど!
そう言ってしまいたい衝動をぐっと堪えて、もごもごと口の中で噛み砕く。
謝っているくせに宇佐野さんはどこか楽しそうにしていて、ちらりと黒い影が見えた気がした。
「でもあの馨がねー……」
「……そんなに担当につくのが珍しいことなんですか?」
オフィスでわいわいと物珍しそうにしている方々を横目で見ながら宇佐野さんに尋ねる。
すると彼は人懐っこい笑顔を浮かべて、ぽんぽんと優しくわたしの頭を撫でた。
「僕と馨は同期で入社してからずっと同じ部署にいるけどね、あいつが後輩の面倒を見るのは初めてだよ」
くらり、眩暈がした。
どうして……どうしてわたしのときも拒んでくれなかったんだろう。
最初は嫌だって言ったくせに、なんで今回だけ……。
新入社員に仕事の効率下げたら殺すって!殺すって!!
なんて物騒なひとなんだろう…。
落ち込むわたしとは対照的に宇佐野さんは楽しみだなぁとにやにやしており、その端整な顔をぶん殴りたい衝動に駆られた。
そしてその翌日から、わたしは鬼畜シュガーというあだ名を思い付いたのだった。