佐藤さんは甘くないっ!

彼氏と彼女は、別れたら二度と仲良くなれないんだと思ってた。

今こうして優輝と当たり前のように笑いあえるのは奇跡的なことなのかもしれない。

皆がそうかなんて解らないけど、少なくとも律香は別れた彼氏の良い話なんてしなかった。

気付けば一時間以上、思い出話に花を咲かせていた。

大学生のときの話、付き合っていたときの話、今の職場の話。

優輝は農業について北海道の大学で学び、その知識を活かせる環境で就職したそうだ。

無農薬栽培の難しさや面白さを楽しそうに話す優輝の瞳は、社会人というより大学生のようだった。

その眼差しはいつまでも純粋できらきらしている。

わたしも自分の会社について話しながら、脳内に何度も何度も佐藤さんの姿が過った。

すっかり冷めてしまった紅茶で咽喉を潤わせる。


「(佐藤さんに早く会いたいな。)」


……って、何言ってるの、わたし。

自分でもびっくりするくらいすとんと言葉が落ちてきた。

会いたい。誰に?…佐藤さんに。

優輝と再会できて楽しいのに。嬉しいのに。

どうしてさっきから佐藤さんのことばかり思い浮かぶんだろう。

ケーキを食べながら、佐藤さんはどんなケーキが好きなんだろうって。

お土産に買っていこうかなって考えたらわくわくしてきて。

美味しいって言ってくれたら嬉しいなって、食べてるところを想像しちゃって。

最初は罪悪感で苦しかっただけ。

だけど今は無性に会いたくて仕方がない。


「……郁巳、彼氏できたでしょ」
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