佐藤さんは甘くないっ!
予想外の言葉に驚いて、カップを落としてしまいそうだった。
優輝は優しい笑みを浮かべたままわたしを見つめている。
その笑みに込められた意味が解らず困惑した。
「えっと……」
何を迷う必要があるんだろう。
こんなに頭の中は佐藤さんでいっぱいなのに。
妙なくらい思考は冴えわたっていて、黒いもやもやなんてどこかに行ってしまっていた。
「……うん、会社の上司なの」
仮とかそんなことは言えなくて、だけど初めて社外の誰かに彼氏だって紹介したかもしれない。
思わずにやけてしまいそうでさりげなくハンカチで口元を隠した。
優輝は少しだけ意外そうな顔をして、それからまたすぐに目元を緩めた。
「すごく幸せそうな顔してるから。さっきからそのひとのことばっかり考えてたでしょ?」
「えっ」
図星過ぎて返事が思い付かなかった。
顔を赤くして固まるわたしを見て、優輝が声を出して笑い出す。
ちゃんと会話してるつもりだったのに…そんなに表情に出ていたのかな…。
優輝に失礼なことをしたはずなのに何故か優輝はとても嬉しそうだった。
「それに郁巳、すごく可愛くなったよ」
…そういうことをさらっと言うところは宇佐野さんみたいだ。
なんて返したら良いかわからず、誤魔化すように紅茶を飲みほした。