佐藤さんは甘くないっ!
会計を済ませてカフェを出ると、優輝に促されて噴水の周りにあるベンチに腰かけた。
石造りのベンチはひんやりと冷たい。
何度もここで優輝と話をした。
何度もここで優輝とキスをした。
思い出の欠片があちこちに散らばっていて、それは今優輝にはどんな色に見えているんだろう。
気付けば日が落ちてきていて、噴水の水はオレンジ色を反射しながら噴き上がっていた。
「俺ね、結婚するんだ」
……え?
何でもないことのように、優輝は抑揚もなくさらりと言った。
時間が止まったみたい。
思考が追い付いて行かない。
周りの雑踏なんて気にならないくらい、優輝の声が静かに響く。
「研究のためにお世話になってた農家の娘さんでさ、同い年なんだけど大学には行かないでずっと家業を手伝ってる、純粋で優しい子なんだ。俺には勿体ないくらい良い子。ちょっと早いかなって思ったけど、この子しかしないって思ったから、結婚を申し込んだ」
会ったこともないのに頭の中にイメージが浮かんでくる。
きっと、髪の毛は艶々の黒髪なんだろうな。
きっと、優輝みたいに優しく笑うんだろうな。
きっと、きらきら光る純粋な瞳で、綺麗な笑い声を上げるんだろうな。
誰からも好かれるような可愛らしいひとが、優輝の隣によく似合っている。
気付けば頬を生温いものが伝っていた。
……わたし、泣いてる?
「結婚する前にどうしても郁巳に会いたかった。彼女に全部話したけど、行っておいでって背中を押してくれたんだ」
優輝も同じように泣きそうな顔をしていた。
ああ、なんで、そんな顔をするの。
優輝が手を伸ばしてわたしの涙を拭って、困ったように笑った。