佐藤さんは甘くないっ!

使うのは二度目のカードキー。

連絡が無いということはまだ帰ってきていないので、インターホンは鳴らさずに部屋に入った。

緊張しながら扉を開けると、前に来たときと同じ匂いが満ちていた。

まるで佐藤さんに包まれているみたいな気持ちになる。

夜ご飯は外食にしようと言われていたので特にやることもなく、とりあえずケーキを冷蔵庫に入れた。

綺麗に整頓された部屋は掃除機を掛ける必要もなく、片付けるものもない。

コンポのスイッチを付けてからソファに腰を下ろした。

心地良いジャズの音色がゆったりと流れる。

……いざ告白をしようと決めたら心拍数が上がりまくりだった。


「…………はぁ、緊張するっ…」


佐藤さんに告白された日。

罰ゲームですか?と聞いたわたしに、佐藤さんは般若のような顔でぶち切れていた。

それは遠い昔のことのように思えた。

あれから佐藤さんの表情をたくさん知って、わたしはまっすぐに愛される喜びを教えてもらった。

いつも真摯に誠実に向き合ってくれる佐藤さん。

重たいわたしの欲求にも嫌な顔ひとつしないで、臨むところだとばかりに踏ん反り返っていた。


“俺、重いって言葉嫌いなんだよ。それだけ好きってことだろ。どうして悪く捉えるんだ?”


あの言葉がどれだけ嬉しかったかなんて、きっと佐藤さんは知らない。

たぶんわたし以外の女の子が言われたって嬉しくて泣いたはずだ。

それくらい優しさで溢れた言葉なのに、佐藤さんは当たり前のことを言ったとしか思っていない。

……ああもう、どこまで甘やかしたら気が済むんですか。
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