佐藤さんは甘くないっ!
佐藤さんは宣言通り、微塵も欠片も甘くなかった。
「昼休みまでに打ち込め」
ぽいっと渡された分厚い資料を熟読し要点をまとめ、会議用の資料にするため強調箇所や再計算箇所を洗っていたら既にお昼休みの時間になっていた。
エクセルもろくに使えないのか、と鼻で笑った佐藤さんの顔が今でも鮮明に思い出せる。
…こんなすごい量をいきなり与えるなんて鬼畜だ、鬼畜シュガーって呼んでやる。
悔しくて悔しくて見返したくてご飯も食べずに半泣きでキーボードを叩いていたら、すっかり日が暮れて19時を回っていた。
特に忙しい時期でもないため、オフィスにはわたししか残っていない。
時間はだいぶかかったけどまずまずの出来栄えに満足してガッツポーズを決めたところで、後ろからべしっと資料で頭をはたかれた。
慌てて振り返ると何故か定時で上がったはずの佐藤さんがいて、わたしは幻覚でも見ているのでは…と自分の目を疑ったけど、それは紛れもなく本物だった。
無言でわたしの作った資料をぺらぺらと捲り、表情は固定のまま視線だけが上下する。
最後まで目を通した第一声は「見にくい」だった。
「…………すみません」
どこかで褒められることを期待していたバカなわたしは、粉々に打ち砕かれた。
泣きそうな気持をぐっと堪えて、謝罪の言葉を口にする。
仕方ない、相手は一応上司だしわたしなんかまだまだ新米なんだ。
頑張ったからといって必ず評価されるわけじゃない。
成果が伴わなければその頑張りはただの時間の無駄として処理される。
そんなものしか作れないわたしが、悪い。
…ああ、だめだ、泣きたく、ないのに、
膝の上で固く握りしめた掌に爪が食い込む。
ぽたりと涙が零れ落ちるよりも早く、低い声が沈黙を切り裂いた。