佐藤さんは甘くないっ!

ケータイをローテーブルに置いた直後、がちゃりと扉が開く音がした。

なんてタイミングだろう、今送ったばかりなのに。

間の悪さにひとりで笑って、玄関までぱたぱたと駆けて行った。

扉の一枚さえもどかしく感じてしまいそうだった。


「おかえりなさ……」


リビングに繋がる扉を開けた瞬間、心臓がおかしな音を立てた。

天国から地獄とは、まさにこのことだろうか。

笑顔でいっぱいだったわたしの表情が凍り付く。



玄関に立っていたのは―――誰?



「えっ……」


何が起きているのかよく解らなかった。

わたしが扉を開けたわけじゃない。

つまりこのひともカードキーを使って入ってきたに違いなかった。

だけど、目の前にいるのは、佐藤さんじゃない。

お互い無言で数秒見つめ合った。

息の仕方を忘れてしまったように苦しくて、うまく酸素が取り込めない。

最初に沈黙を破ったのは来訪者の女性だった。


「……あなた、どちら様?」


落ち着いた声音から、大人の余裕を突き付けられた気がした。

どちら様かなんてこっちが聞きたい。

だけど言葉が出てこなくて、わたしはただ目を見開いて立ち竦んでいた。
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