佐藤さんは甘くないっ!

嫌でも視界に飛び込んでくるのは、同じ女性としての敗北感。

胸の辺りまである長い茶髪はくるくるとウェーブしていて、上品な雰囲気が出ている。

真っ赤な口紅が嫌味なくらいよく似合っていた。

身体にぴったりのワンピースが、スタイルの良さをはっきりと映し出している。

わたしも同じようにワンピースを着ているのに全然違うものに見えた。

大きな瞳に鼻筋が通っていて、モデルだと言われても納得してしまう程だ。


佐藤さんのご家族かな、

なんて、現実逃避の言葉に過ぎなかった。


一目見たときから嫌な予感がしていた。

それが確信に結び付いたのは、わたしに向けられた敵意の視線。

何よりもの証拠は佐藤さんの部屋のカードキーを持っていることだった。

作るのに時間がかかるという、あの特注のカードキー。


「ねえ、どちら様って聞いているんだけど」


美人にぴったりの吊り上がった双眸から鋭い眼光が向けられる。

蛇に睨まれた蛙、なんて表現をまた使うことになるなんて。

女性は、何も言わないわたしを面白くなさそうに一瞥して髪をかきあげた。

その仕草すら絵になっていることが不愉快だった。


「わ、たしは……」




―――なんて、言ったらいい?




言いよどむわたしを鼻で笑うと、女性は唇を歪めて言い放った。


「私はね、馨の彼女よ」
< 171 / 291 >

この作品をシェア

pagetop