佐藤さんは甘くないっ!
このタイミングで、不意に律香が以前言っていたことが頭を過った。
“佐藤さんって恋人とかいるのかなぁ、一回噂あったけどそれ以外聞いたことないや”
恋人、一回、噂、それ以外。
全てのキーワードが最悪の形で繋がっていってしまう。
あのときわたしは、佐藤さんはどんなひとを好きになるんだろうって考えてた。
目の前にいる、凛とした佇まいの最上さんは、佐藤さんとお似合いだった。
ふたりとも整った顔をしていて、誰から見ても美男美女のカップルだろう。
わたしなんかよりも、ずっと……ずっと。
「本当は馨の誕生日に帰ってくるつもりだったけど、サプライズで早めて良かったわ。まさか貴女みたいなひとがいるなんて思わなかったから」
軽蔑するような眼差しが向けられて、思わず身を縮こまらせた。
佐藤さんの誕生日は、お試し付き合いの期限だった日。
“―――柴、俺と付き合え。1ヶ月で良い。俺の事、絶対好きにさせてやる”
あの言葉はそういう意味だったの?
信じたくない。
そんな、……まさか。そんな。
……嘘だよね、嘘、に決まってる。
頭がくらくらした。
吐き気が込み上げて気持ち悪くなった。
もはや状況が呑み込めなくて涙すら出てこなかった。
最上さんはちらっと部屋の奥に視線をやると、くるりと踵を返した。
「馨はいないみたいね、帰るわ。……言わなくても解ってると思うけど、二度と馨に会わないで」
バタン。
大きな音と共に目の前で扉が閉まった。
まるでそれは、佐藤さんへの道が途絶えたようにも見えた。