佐藤さんは甘くないっ!

何も理解できていなかった。

ましてやわたしが弄ばれたなんて、考えたくもなかった。

だけど佐藤さんがわたしに隠し事をしていたことは紛れもない事実だった。


「……他にもカードキー渡したひと…いたんですね…」


いなかった、なんて言われていない。

いた、とも言われていなかった。

佐藤さんはいつだって真摯で誠実で…………本当に、そうだった?


遠距離恋愛?なにそれ?

要らない?わたしはなに?


佐藤さんは嘘を吐いていたの?


……もう頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えられない。

ぼんやりとした視界の中、ケータイに電話の着信を告げるランプが灯っていた。

それを見た瞬間、無意識のうちにケータイの電源を落としていた。

そして乱暴に鞄を掴んで佐藤さんの部屋を飛び出していた。

外で最上さんに会ったらどうしようなんて考える余裕もなく、ただ今すぐここから逃げ出したかった。

エントランスを抜けると、さっきまであんなに晴れていたのに大粒の雨が降り出していた。

でも今はそんなことも気にならないくらい頭がおかしくなりそうだった。

目的地なんかない。

ここからできるだけ遠ざかることだけを考えていた。

とにかく最寄駅まで全力で走って、ずぶぬれのまま、ぼんやりと改札前で立ち尽くしていた。

……わたし、どこに行けばいいんだろう。

佐藤さんに会いたかった。

佐藤さんに好きって言いたかった。

なのにどうして、こんなことになってるの?
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