佐藤さんは甘くないっ!
……このまま死んでしまえたら良いのに。
そんなことが頭に浮かんできた瞬間、思いっきり腕を後ろに引っ張られた。
突然の出来事に判断が追い付かず、その力に従って振り向いた。
「柴先輩!?なにしてるんですか!?」
……なんで。
なんで、なんで、なんで。
目の前には青い顔をした三神くんがいた。
大きな声にびっくりした通行人がちらちらとこちらを見ながら通り過ぎていく。
三神くんはそんなこと気にも留めない様子でわたしの肩を揺らしている。
「柴先輩?どうしてそんなずぶぬれなの?大丈夫?」
心の底から心配してくれているのが痛いほど伝わってきた。
持っていたタオルで忙しなくずぶぬれのわたしを拭いてくれるその手が優しかった。
どうしてここにいるのとか、すごい偶然だとか。
今はそんなことどうでも良かった。
どこにも行けないわたしのことを、見付けてくれるひとがいた。
ただそれだけで、死ぬほど嬉しかった。
三神くんの顔を見ていたらさっきのことが脳内を駆け巡って、ぐるぐるして、わけがわからなくなって、すごく、すごく、悲しくなって、すごく、すごく、すごく、寂しくなって。
何かの糸がぷつんと切れたように、堰を切ったように。
今までどうして抑えきれていたのか不思議なくらいの涙が一斉に溢れ出してきた。
呼吸困難になりそうなくらいしゃくりあげながら、無我夢中で三神くんに抱き付いた。
「ぅああ、あっ、ああああっ……!!」
三神くんは黙ったまま、ただただ強い力でわたしを抱き締めてくれた。