佐藤さんは甘くないっ!
身体が冷たかった。
心はもっと冷たかった。
消えてしまいたかった。
“柴、お前が好きだ。結婚を前提に付き合って欲しい”
あんなに嬉しかったはずの言葉なのに、ノイズが煩くて聞こえない。
聞こえないよ。
なにも、なにも、きこえない。
“俺がお前に厳しくするのは―――必死で頑張る柴が好きだからだ”
あれも、これも、全部嘘だったのかな。
そんなはずないって信じたいのに。
ざあざあと雨音によく似た音が聴覚を支配して、全てを掻き消していく。
どろどろと悪意が、暗闇が、嘘が、流れていく。
「……わたし……なにしてるんだろ……」
温かいシャワーを全身に浴びながら、くもった鏡をぼうっと眺めていた。
…化粧は崩れまくりで、我ながら酷い顔だ。
張り切ってお洒落なんかをした罰が当たったんだと言われているみたいだった。
化粧落としのクレンジングがあって良かったなぁ。
そんなことを考えながら、自分の知らない香りのシャンプーで頭を洗った。
良い匂いがする。これなんだっけ。
ああ、この匂い、知ってる。
「……三神くんの匂いだ」