佐藤さんは甘くないっ!

お風呂から出ると、扉の外に真新しいスリッパが置いてあった。

さっきまでわたしが着ていたずぶぬれの洋服は洗濯機の中でぐるぐる回っている。

……何から何まで、本当に申し訳ない。

今日はお泊りの用意をしていたから着る物には困らなかった。

まさに不幸中の幸いだなぁ、なんて、バカバカしくて笑えてきた。

佐藤さんに“話したいことがあるので、早く帰ってきてくださいね。”なんてメールを送ったことはすっかり忘れていた。

電源を落としたままのケータイのことも今はどうでも良い。

自分の家より広い廊下を羨ましく思いながら、リビングに続く扉を押し開けた。


「……三神くん、お風呂ありがとう」


改めて感謝の言葉を伝えるのは少し恥ずかしかった。

今までPCに向けられていた丸っこい瞳が、ゆっくりとわたしに向けられる。

わたしを見た瞬間、ほっとしたように笑顔を見せる三神くんが眩しかった。


「おかえりなさい、柴先輩。もう寒くないですか?」

「う、うん!とても温まったよ!」


何故か挙動不審になってしまう。

普段とは違ってメガネをかけている三神くんが新鮮で直視できない。

いつもコンタクトだったんだなぁ、なんて。

…い、いや、だからなにって話なんだけどね!


「いつまで立ってるんです?ほら、どうぞ」


三神くんがぽんぽんとソファを叩いた。

失礼します、と少し緊張しながら隣に腰を下ろすと、くすっと笑われた気配がした。
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