佐藤さんは甘くないっ!
な、なんで笑われたんだろう。
そろそろと視線を動かすと、三神くんとばっちり目が合ってしまった。
慌てて顔を背けるとまた笑われた。
「ははっ…借りてきた猫って、こういうことなんですね」
三神くんは楽しそうにしているけど、わたしはちっとも楽しくない。
なにその例え。全然褒めてないし。
頬を膨らませて背を向けていると目の前にマグカップが差し出された。
漂ってきた甘い香りに自然と頬が緩んでしまう。
ココアだ。実はわたしの大好きな飲み物。
たぶんメロンソーダ、カルピス、の次にランクインする。
「もう機嫌直ってるし。可愛いなぁ」
……な、なにを、言っているんだろう。
三神くんはなんでもないことのように言っているけど、結構爆弾発言だと思う。
素面のときはそんなこと言わないくせに。
自分がイケメンだからって年上をからかうのはやめてほしい。
三神くんの所為でココアへのお礼を言うタイミングを逃してしまった。
「……そういうことすぐ言わない方が良いよ」
熱々のココアをちびちび飲みながらぼそっと言うと、するりと肩を抱き寄せられた。
両手でマグカップを持っていた所為で何も抵抗できず、そのまま三神くんの身体に凭れる形になってしまう。
「ちょ、なにっ……」
「柴先輩だから言ってるんだけど」
怒ったような口調でまっすぐにわたしを見つめる視線が、熱い。