佐藤さんは甘くないっ!
「グラフは効果的で見やすい。だが配置が悪いな」
頑張って思考錯誤の末に作ったグラフに大きな赤丸が打たれた。
そのまま佐藤さんが持つペンはすらすらと紙面に赤い線を描いて行く。
この手のグラフはコストのデータの次に入れるのが効果的だ、とか。
せっかく丁寧な作業ができるんだから見る側の気持ちももっと考えろ、とか。
タイピング速度をもっと上げれば定時には終わっていたはずだ、とか。
「大体こんなところだな。おい、ちゃんとメモを取れ」
「………っ、は、はい!!」
言われたことを思い出しながら新品のノートにがりがりと佐藤さんのアドバイスを書き記した。
佐藤さんの指摘はどれも的確で、自分に足りないものをしっかりと自覚させられた。
真っ赤になった資料が惨めなどころか、勇ましげな姿をしている。
気付けばさっきまでの泣きたい気持ちはどこかに行ってしまって、もっと頑張りたいという気持ちだけが強く残っていた。
もっと、もっと、仕事ができるようになりたい。
……いつか、認められたい。
「柴」
初めて呼ばれた自分の名前にどきりとする。
今気付いたけど、佐藤さんの声って低くてなんだか甘い。
顔と頭だけじゃ飽き足りなくて良い声まで与えるなんて、本当に神様は不公平だ。
しかし神様はわたしなんかにもご褒美を用意してくれていたようだった。
「新米が1日で終わる量じゃなかった。よくやったな」
それは、この二年の間で一度しか見たことがない―――佐藤さんの微笑だった。