佐藤さんは甘くないっ!
「ふぎゃあっ」
何が起きたのか一瞬解らなかった。
キスされるのかと思って目を瞑ってしまったから何も見えなかった。
「柴先輩は本当にバカですねー」
三神くんはわたしの頬を思いっきり引っ張っていた。
容赦ない攻撃から来る痛みで、さっきは思わず変な声が出てしまったのだ。
わたしの頬をぐにぐにしながら三神くんは呆れたような笑いを零した。
そして涙目になっているわたしを楽しそうに見下ろしている。
……どうしよう、ここにもどえすがいた。
「嫌だなぁ、襲うわけないですよ」
けろっとした顔でそう言うと、さっさと体勢を戻してコーヒーを飲み始めた。
……は、は、はぁ!?
呆気なさすぎる幕引きにわたしはついていけない。
なにじゃあさっきの冗談!?
タチが悪いにも程があるっ…!!
ソファに埋もれながら、真っ赤になった顔を見せまいとうつ伏せになって暫くばたばたしていた。
三神くんはやっぱり意地悪だ。ばか、ばかばかばか。
……危なかった。
本当にキスしちゃうところだった。
このまま流されても良いのかな、なんて考えたわたしは最低だ。
最低だけど……そのまま佐藤さんのことを忘れてしまいたかった。
「……襲うわけないでしょ。俺を見てない今のあんたなんか、欲しくない」
三神くんがぽつりと零した言葉は、わたしの耳には届かなかった。