佐藤さんは甘くないっ!
「さて、そろそろ何があったのか話してもらえますか?」
黒縁メガネ越しにわたしを見つめる三神くんの視線から顔を逸らしながら、致し方なく頷いた。
本当はこんな話したくないけど……いきなり泣き出したわたしを手厚く保護してくれた三神くんに何も話さないのは失礼だと思った。
まだ律香にも話していない。ケータイの電源はずっと切ったままだ。
……佐藤さん、今どうしているんだろう。
わたしのこと心配しているのかな。
それとも……もしかして最上さんと一緒なのかな。
ずきずきと胸が痛む。
心臓がこのまま握り潰されてしまうかと思うほど苦しかった。
ぎゅっ
「…………っえ、」
いつの間にか強く閉じていた瞼を押し上げると、三神くんがわたしの手を握ってくれていた。
じんわりと伝わる熱がわたしの心を溶かしていく。
「大丈夫ですよ。僕が隣にいてあげますから」
三神くんはいつもの表情で、へらりと笑って見せた。
今こうして手を差し伸べてくれることがどれだけ嬉しいのか、きっと言葉じゃ伝えられない。
わたしは意を決して、佐藤さんと付き合い始めた経緯から説明した。
そして優輝のこと、……最上さんのこと、なんとか最後まで泣かずに話すことができた。
……そういえば最上さん、馨って呼んでたな。
あのときはそんなこと気にする余裕なんてなかったけど、今更悲しみが襲ってきた。
きっと佐藤さんも……麗って呼ぶんだろうな。
わたしのことは“柴”なのに、ね。