佐藤さんは甘くないっ!

色々と驚かれるだろうと覚悟はしていた。

だけど三神くんはさして表情を変えることもなく最初から最後まで、そうですか、と頷いていた。

……ほ、本当に聞いてた?


「つまり柴先輩を奪うなら今がチャンスって話ですよね?」


…………絶対聞いてなかった!!!!


「あはは、冗談ですよ。マグカップは振り上げないで下さい」


くすくすと笑い声を上げる三神くんはプライベートだからなのか、いつもより砕けた印象だった。

…だから、冗談のタチが悪すぎるってば。

むくれてみせると、謝る気があるのか疑わしい笑みを浮かべて頭を撫でられた。

バカにされてる。

どう考えても年上だと思われてない。


「優輝さん、結婚おめでたいですね」


不意に予想外の言葉が投げかけられて、一瞬呼吸が止まった。

……三神くんがそんなこと言ってくれると思わなかった、から。

だけどその祝言がとても嬉しかった。


「…うん。本当に、わたしまで幸せだった」


思い出してもまだほっこりと優しい気持ちになれる。

優輝の幸せそうな顔、泣きそうな笑い顔、全部が全部、わたしの冷え切った心を温めてくれる。

このままわたしの背中を押してくれて、わたしも同じように幸せになれるんじゃないかって……そんな淡い夢を見ていた。
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