佐藤さんは甘くないっ!
時計をちらりと見た三神くんは、とりあえずご飯にしましょうとキッチンに消えていった。
……え、三神くんが自炊?
気になってこっそり着いて行くと、エプロンをして包丁を握る彼の姿があった。
その目付きは真剣以外の何物でもない。
れ、レア……!
カメラカメラ…ってケータイ使えないんだった!
「……なにしてるんですか」
わたしの挙動に我慢できなくなったようで、呆れたような笑いが返ってくる。
いや、だって、わたしに作れって言うのかと思ったし。
そんな思考を見透かしたように三神くんは言った。
「いつも仕事ばっかりでお疲れの柴先輩を癒してあげようかなーと」
そんな軽口を叩きながらも、手際よく野菜が切られていく。
キッチンの整頓具合や調味料の量からも、いつも料理をしていることが解った。
……誰かの手料理なんて久しく食べてないかも。
思った以上に嬉しい。なんかどきっとした。
さっきまで死にたいくらい落ち込んでいたのに、今はもう笑顔が戻ってきている。
“恋の痛みは恋で癒すしかない!これ名言だから!”
……いやなんで律香の名言が今出てくるの。
わたしは頭をぶんぶんと振って、そのままぼんやりと三神くんの様子を眺めていた。
三神くんも初めはこちらを気にしていたけど数分もすれば料理に没頭していた。