佐藤さんは甘くないっ!
網膜に焼き付いたように、佐藤さんの微笑が何度も何度も甦る。
心臓がきゅうっと、不思議な音を立てた。
嬉しさで舞い上がってしまいそうな自分を叱咤し、慌てて立ち上がって深く頭を下げた。
「あ、ありがとうございます!!」
頭を上げたとき、もう視界には佐藤さんの背中しか映っていなかった。
わたしのためにわざわざ戻ってきてくれたり…するわけ、ないよね。
再び一人になってしまったオフィスで、大きな溜息を吐いた。
それは嘆くためのものではなくて。
佐藤さんの存在の大きさに気付かされたことへの、言わば感動から自然と漏れたものだった。
こんなすごい上司、そうそういない。
絶対にいつか追いついてみせる。
絶対に絶対に、認めてもらう。
潤んだ瞳をハンカチで押さえて、わたしもさっさと会社を後にした。
そこでやっと空腹感が襲ってきたためお気に入りのラーメン屋さんにその足で向かう。
鞄の中でノートと真っ赤な資料が揺れている。
優越感によく似た気持ちでわたしは今にもスキップを踏んでしまいそうだった。
―――しかし翌日、昨日の出来事は幻覚だったのかと思い知らされる。
「柴、二度も同じことを俺に言わせるな!」
「柴!こんな仕事に3時間も掛けるな!1時間で終わらせろ!!」
「しばぁぁぁあああ!!!!全部一桁ずれてるだろうが!!!!やり直せこのバカ野郎!!!!」
…鬼畜シュガーはやっぱり鬼畜シュガーだった。
涙目でタイプミスを直すわたしに怒号が飛び続け、他の新入社員はすっかり萎縮している。
でも、でも、でも!
いつか絶対に見返してやるんだから!!
「柴!もっと早く手を動かせ!!!!殺すぞ!!!!」
……む、無理かもしれない、けど。