佐藤さんは甘くないっ!
時計を確認するとまだ朝の七時だった。
でも三神くんは勝手に早起きのイメージがあったので、未だぐっすりと眠っているところになんだか違和感を覚える。
思い立ったわたしはそろそろとベッドを抜け出してキッチンに向かった。
勝手に人様の家のキッチンを拝借するのは、ひとによってはだいぶ迷惑で鬱陶しい行為だ。
でも昨日さりげなく確かめてみたところ、三神くんは全く気にしないひとらしい。
なのでわたしは今、彼のエプロンを借りて包丁を握っている。
お豆腐とあおさの味噌汁、きんぴらごぼう、焼き魚、白いご飯。
因みに今焼いているお魚は早く処分したいと三神くんが昨日ぼやいていた例のお魚だ。
念のためにリサーチしておいて良かった。
一応使ったら困りそうな食材には手を出していないので怒られはしない…と思う。
いきなり断りもなくご飯作っちゃう女とか引かれるかもしれないけど。
一宿一飯の恩義というやつなので許して欲しい。
勝手にやっといて恩の押し売りとか最悪だとは思うけど、まあもう作っちゃったし。
わりと満足のいく味になって得意になっているとリビングの扉が開いた。
「……しばせんぱい…?おはようございます…なにしてるんですか…?」
まだ眠そうな瞳でぼんやりとメガネ越しにわたしを見つめている。
いつものしゃんとした姿とは違って幼く見える。
仕事をしていると二つも年下であることを忘れかけるので新鮮だ。
「あ、おはよう。ごめん、勝手にキッチン借りちゃった。お口に合うか解らないけど、よかったらどうぞ」
机に並べた料理を指し示すと、急に三神くんの目が輝き始めた。
眠気はどこかに行ってしまったようでどこか落ち着きのない様子だった。