佐藤さんは甘くないっ!

お昼ご飯はポップコーンやらポテトチップスやらのお菓子で済ませてしまって、夜ご飯は外食をすることになった。

徒歩十分くらいの場所にある三神くんの好きなお店に連れて行ってもらい、美味しくてリーズナブルな焼肉を頂いた。

ここは先輩なのとお礼を兼ねて、嫌がられたけどなんとか奢ることに成功した。

あのときの三神くんといったら、苦虫を噛み潰したような表情、という表現がぴったりだった。

思い出し笑いができるくらい不服そうで面白かったな。

送っていきますよ、との言葉に甘えて最寄駅まで電車を使い、まだ早いのにすっかり暗くなった道を歩く。


「……夢みたいな休日でした」


三神くんがわたしに歩幅を合わせながら静かに言った。

わたしにとってもそうだったよ。

言葉にはしなかったけど、なんとなく伝わった気がした。

まさか三神くんにご飯を作ってもらって、お泊りまでするなんてね。

部下とそんなことになるなんて思わなかった。

ただただ優しくて、優しすぎて苦しいくらいだった。

だけどもう現実逃避は終わり。

わたしはちゃんと佐藤さんと向き合わなきゃいけない。

自宅のマンションのエントランスをくぐったところで、三神くんは足を止めた。

あれ、と思って振り返ると何故か俯いていて表情が読めない。

わたしたちの間にある距離は、五歩分くらい。


「……三神くん?」


返事はない。

五歩から四歩に、そして三歩、二歩。

三神くんが目の前にやってきたかと思えば不意に腕を引かれて、肩にかけていた鞄がどさりと落ちた。
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