佐藤さんは甘くないっ!
仮病を使うかぎりぎりまで悩んだ挙句、重たい身体を引きずって出社した。
こんなときに限って雨が降っていて、傘を持って乗り込んだ満員電車はより酷いものになっていた。
すでに疲れ果てた状態でオフィスに足を踏み入れた瞬間、違和感を覚える。
……どうしたんだろう?
第一部署だけではなく、フロア全体が落ち着きなくざわついていた。
また部長が何かやらかしたのかと思ったがそういう感じじゃない。
宇佐野さんですら何だか様子がおかしい。
佐藤さんのデスクはぽっかりと空いていて、ほっと溜息が出た。
…佐藤さんがいなくてどうして安堵してるの。
自己嫌悪がわたしを責める。
三神くんのデスクも空いているけど、きっと新聞を読みに行っているだけだ。
なんとなくそんな気がした。
そうこうしている内に三神くんは戻ってきて、佐藤さんの席は相変わらずだった。
……三神くん。
周りに気付かれないように窺うと、見た感じ怪我などはしていないようだった。
最近の中で一番大きな溜息が零れる。
はぁ…もうどうしたら良いんだろう…。
ずきずきと痛む頭は低気圧の所為か、低血糖の所為か、とにかく何かが不足しているのだと思った。
「皆、大事な発表があるからそこに並んでくれるかな」
部長の声掛けがあり、皆訝しみながらも部署の前に一列に並んだ。
全ての部署のひとが並んでいる光景は異様だった。
当然ながらその列の中には星川さんや高野くんの顔もある。
わたしの隣に立った三神くんが不思議そうな視線を投げかけてきたが、わたしも何が何だか解っていないので首を横に振って返した。