佐藤さんは甘くないっ!

廊下の奥から集団が歩いてくる気配がする。

会社の社長クラスのお偉いさんたちなんだろうと察していた。

その雑音に紛れて、ハイヒールが鳴る音がした。

どっと嫌な汗が噴き出す。

そんなわけがない、……なのに今の悪寒はなに?

集団の中には佐藤さんの姿があった。

さっきとは違い、顔が見られて安心している自分がいる。

佐藤さんが前に出た。

そして集団の波がさっと開いて、信じられない光景が待っていた。


「紹介します。こちら、先日アメリカ支社から帰国した最上麗さんです」


佐藤さんの低くて聞き取りやすい声なのに、全く耳に入ってこない。

アメリカ支社、最上麗?

目を見開いたまま固まったわたしを見て、三神くんも合点がいったようだった。


「この度、当社とアメリカ支社の共同開発による大規模なプロジェクトが計画されています。そのために最上さん含め、彼女が率いるチームに帰国して頂きました」


それは恐らく、最近佐藤さんが忙しくしている理由だった。

アメリカ支社との共同プロジェクトだったなんて知らなかった。

当たり前か、わたしなんかにぺらぺらと喋るひとじゃない。

……なんだ……帰国するのは決まってたことだったんだ。

佐藤さんは最上さんと会うことを知っていた。

だけどわたしには何も教えてくれなかった。

ただの部下ならそれが当然だ。

でもわたしは……仮だって何だって、あなたの彼女じゃないんですか?
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