佐藤さんは甘くないっ!
最上さんは真っ赤なルージュで唇を濡らして、にこやかに微笑んでいた。
あのひとは何もかも持っている。
地位も名誉も美貌も……わたしが勝てる要素なんかひとつもなかった。
足場がどんどん崩れて視界が闇で染まっていく。
黒い。暗い。黒い。暗い。
ひどく落ち着いた声音で、佐藤さんが最上さんの紹介をしていた。
「ご存知の方も多いと思いますが、最上さんは3年前まで私たちと共に第一部署で働いていました。女性初のアメリカ支社採用、多数のプロジェクトの成功など、非常に多才な方であることはまだ記憶に新しいでしょう。そんな彼女がプロジェクトの架け橋となって戻ってきてくれたことへ感謝の気持ちを述べたいと思います」
……3年前。
わたしが入社する1年前に、アメリカに行ったんだ。
佐藤さんの同期なんだろうか。
どれくらい付き合っていたんだろう。
びっくりするくらい世界は残酷だ。
入社するずっと前から、わたしの居場所なんか無かった。
わたしのちっぽけな矜持すらポキンと容易く折られてしまった。
佐藤さんに追い付くために必死で頑張ってきた。
どんなに辛くても死に物狂いでしがみ付いて2年以上やってきた。
仕事に対する姿勢だけが誇りだった。
だけど、最上さんは。
「麗さんってずっと佐藤さんのパートナーだったよな」
「そうそう!伝説の黄金コンビ!凄かったよなぁ。出す企画が全部ヒットして大成功!」
「アメリカ行くのが麗さんだけで驚いたけど」
「ばか、佐藤さんまで行ったら本社が潰れるだろ」
「あはは、確かにそうだなー」
当時を知るひとたちが嬉しそうに話している声が聞こえた。