佐藤さんは甘くないっ!

触れる指先が温かくて余計に視界が滲む。

今は優しくしないで、なんてどこまで我儘なんだろう。

ふと視線を感じて振り返ると、佐藤さんがこちらを見ていた。

三神くんもつられてわたしの視線を追い、はっとしたような顔で固まった。

……だから、なんでそんな顔をするんですか。

本当に悲しいのはわたしなのに。

今、佐藤さんの隣にいるその人が、こんなにも羨ましいのに。

なんで自分が被害者みたいな顔しているんですか。

…どうして目を逸らしてくれないんですか。


「っ、……ごめん」


三神くんの手から強引に逃れて、わたしは一番近い女子トイレに駆け込んだ。

心臓がばくばくしている。

個室に入って鍵を掛けて、ずるずるとしゃがみ込んだ。

瞼を下ろしても佐藤さんの顔が消えない。

……こんなことしてる場合じゃなくて、仕事に戻らなきゃいけないのに。

涙が零れ落ちるのを必死に堪えた。

唇を噛み締めて声が漏れないよう必死に抑える。

あのまま触れていたら、三神くんの優しい指先がわたしの心を解かしてしまいそうだった。

…違う、今のわたしはきっと誰でも良いんだ。

佐藤さん以外の誰かに優しくされたいだけなんだ。


「…………さいていだ…」


小声で呟いた言葉は、誰もいない空間に散らばっていった。
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