佐藤さんは甘くないっ!

いつもより精神的に長かった勤務時間。

お昼休みは食欲がなくて、迷った挙句ゼリー飲料で済ませてしまった。

三神くんの何か言いたげな視線を無視してずっとPCの画面に齧り付いていた。

オフィスにはあれから佐藤さんも最上さんもやってこない。

今朝のざわめきもすっかり落ち着き、最上さんの話をしているひとは殆どいなかった。

きっと例のプロジェクトが忙しいのだろう。

二人で何をしているかは知らないけど。

……って、なに言ってるの。

佐藤さんは仕事中に女連れ込むとか……しない、と、思っていた。

……でも、それはわたしの知る佐藤さんであって、本当は違うのかもしれない。

最上さんしか知らない佐藤さんなら、どうなのか解らない。

わたしだけが知っている佐藤さんなんて、本当にいたのかな。

全てがまやかしだったように感じてしまう。


「しーばーちゃん」

「……宇佐野、さん」


そんな無限ループを切り裂くように明るい声がわたしを呼んだ。

きっと酷い顔をしていたんだと思う。

わたしの顔を見た宇佐野さんが一瞬、悲しそうな顔をしたから。

コンシーラーで隠した隈も、泣き腫らした瞼も、荒れた唇も。

一日で全ての痛みが、その痕跡が、なくなるわけじゃなかった。

今日も追い討ちを掛けられたっていうのに。

もうどこにも居場所がなくて、何を信じたらいいのか解らなくて。

宇佐野さんはそんなわたしの気持ちを打ち消すように、にへらと笑って見せた。


「ご飯、行かない?」

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