佐藤さんは甘くないっ!

ケータイは業務に差し支えると思い、今朝電源を入れた。

佐藤さんからは、着信が何件も入っていた。

メールもたくさん来ていた。

全部開封するのがつらくて、一番上のメールだけ開いた。

時刻は昨日、佐藤さんに会った後だった。


“話がしたい。”


たった一言だけなのに胸が締め付けられて涙が零れた。

あんなに会いたかったはずなのに、昨日顔を見た瞬間、心臓が止まるかと思った。

佐藤さんは何時からマンションの下で待っていたんだろう。

わたしはその間もずっと三神くんと笑い合って、映画を見て、ご飯を食べていたのだろうか。

それとも単なる偶然で、ちょうどやってきた佐藤さんと出くわしてしまったのだろうか。

……悪いのは佐藤さんのはずなのに、どうしてか苦しくて、罰を受けたような気持ちになった。


「(…………何を話せば良いんだろう)」


電車の窓から見える景色がいつも以上にくすんで見える。

ガタンゴトンと揺れる振動がやたらと大きく感じた。

わたしは、佐藤さんとどうしたいんだろう。

会社で佐藤さんの隣にいる最上さんを見てから、気分はめちゃくちゃだ。

好きという感情さえ奪われてしまいそうなくらい闇は深い。

佐藤さんとちゃんと話すって決めたのに。

ずっと最上さんが一緒にいるなら、もう会社では話せない。

そもそもわたしが気持ちを伝えたところでどうなるんだろう。

思考はどんどん悪い方向に流されていく。

良い方向に引き戻してくれるひとが誰もいないから当然だ。

食欲はやっぱりなかった。

冷蔵庫を開ける気力すら生まれない。

点滅するケータイをソファに投げ捨てて、わたしは化粧も落とさずベッドにダイブした。

目を閉じれば、暗闇の中に、立ちすくむ佐藤さんの姿がぼんやりと浮かび上がった。
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