佐藤さんは甘くないっ!

―――――
―――


「柴」


わたしの名前を呼ぶ声はいつも通り低いのに、どこか疲れている感じがした。

心臓がばくばくと煩くて、その声すら掻き消してしまいそうだった。

どうして、佐藤さんがいるの。

動けないわたしに、佐藤さんがゆっくりと近付いてくる。

どうしよう。

どうしよう。

なにを、いわれるんだろう。


“柴はただの遊び相手だ”


……そんなはずないって、あれほど強く思っていたのに。

どうして足が竦むんだろう。

どうして不安に思うんだろう。

どうして佐藤さんが、怖いんだろう。

三神くんもわたしと同じように動揺しているのが解った。

万が一のことを考えて早めに帰ってきたのに、それでも佐藤さんがいたからだろう。


「……なんで三神と一緒にいるんだ」


感情を押し殺そうとして、全然できていないような声音だった。

苛立ちがこれでもかと溢れていた。

びくっと肩を震わせると三神くんがわたしをかばうように前に出た。


「僕が無理やり泊めたんです」


さらっと事実を述べてしまう三神くんに驚きが隠せなかった。

怖くて佐藤さんの目が見られなかった。

恐る恐る視線を少しだけ上げると、佐藤さんがもう目の前まで迫っていた。

三神くんはそれでもどかなかった。

何故かこのタイミングで口角を吊り上げて、三神くんは小さく笑った。


「あーそういえば、一緒のベッドで寝ましたよ」

「っ、てめぇっ…!!」


佐藤さんが三神くんの胸倉を掴みあげた。

今までに見たことがないような、般若では表現できない怒りを露わにしていた。

身体の震えが止まらなくて、二人の間に割り入ることもできなかった。
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