佐藤さんは甘くないっ!

茫然とその光景の前で立ち尽くしていると、三神くんがこの期に及んで笑顔を向けた。


「柴先輩、早く部屋に入ってください」


逃げ出したいわたしの気持ちを許してくれるような言い方だった。

許しをもらったから、なんだっていうんだろう。

なのにわたしの身体は突然軽くなって、地面に落ちた鞄を拾い上げると一度も振り向かないで部屋まで走った。

背中の方で、柴、と呼ぶ声が聞こえた。

最低だ。わたしは最低だ。

部屋に入ってから普段は飲まない律香が残していったビールを一気に流し込んで、気持ち悪くなって久しぶりに吐いた。

泣きながら吐いて、それでも気持ち悪くて、また吐いた。

三神くんは何も関係ないのに巻き込んでしまった。

佐藤さんはとても怒っていたから、三神くんを殴ってしまうかもしれない。

どうしよう。どうしよう。

どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

だけど怖くて、佐藤さんと向き合えなくて、身体の震えが止まらなくて。

嫌でも明日から会わなきゃいけないのに、わたしはどこまで愚かなんだろう。

きちんと佐藤さんと話すって決めたのに。

覚悟なんか全然できてなかったんだ。

馬鹿だ。死ねばいいのに。

わたしなんか消えればいいのに。

泣き腫らした瞼を氷で冷やしながら、そんな言葉ばかり頭に浮かんできた。

明日三神くんにどんな顔をすればいいんだろう。

明日佐藤さんにどんな顔をすればいいんだろう。

酸欠になりそうなくらい苦しくて、もう心の限界が近いことを感じていた。
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