佐藤さんは甘くないっ!

そんなの、聞いてない。

反射的にポケットに押し込んであったケータイを取り出した。

ずっと触っていなかったため気付かなかったが、昨夜佐藤さんからメールが来ていた。


“木曜まで出張が入っている。帰ってきたら時間を作ってほしい。”


メールが来ていただけ良かった、……なんて今のわたしには思えなかった。

……誰と、なんて書いてない。

それはそうか。

わたしに伝える必要なんて、ない。

わたしって、なんだろう。

佐藤さんにとっての柴って、なんだろう。

……帰ってきて、何を話すんですか。

最上さんのこと?

わたしとの今後のこと?

それは、良い話ですか?

悪い話ですか?

祈るように、胸元でぎゅっとケータイを握りしめた。

逃げ続けているわたしが悪いって、解ってる。

だけど佐藤さんはどうして、平然と最上さんの隣を歩いているんだろう。

わたしがそれを見てどんな気持ちになると思っているんだろう。

仕事だからなのか。

仕事、で全て片付いてしまうのか。

佐藤さんならそれで片付いてしまうのかもしれない。

でも、わたしはそこまで割り切れない。

きっと佐藤さんが一番嫌いな人種だ。

公私の区別ができないなんて、最悪だ。

……ああ、もう、つらいな。

ぱたり、ぱたり、といつの間にか涙が床に落ちていた。

慌てて目元を拭って踵を返す。

オフィスに戻ると最上さんと佐藤さんの話題があちらこちらで囁かれていて、耳を塞いでしまいたかった。
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