佐藤さんは甘くないっ!
わたしって結構現金なんだなぁ…。
怒られるたびにこの鬼畜シュガーめ!滅べ!なんて思ってるけど。
でもちょっとだけ認められたようなことを言われたらすぐに舞い上がっちゃう。
あの日以来、佐藤さんの口から「よくやったな」を聞いたことはない。
二年間掛けても一回しか聞けないなんてどれだけレアなんだろう。
でもだからこそ言わせたい。
言うしかないような状況に自分から持っていくしかない。
だからどんな理不尽なことを言われても、わたしは明日からも頑張ろうって思えるんだ。
がしょん、がしょんと大型プリンターが苦しそうな声を上げる。
ページ数が多い上に明日の会議で並べるため部数もそれなりに多い。
印刷と製本だけで1時間はかかりそうだなぁ。
そして唐突に違和感を覚える。
…どうして佐藤さんは帰らないんだろう。
ちらっと覗き見れば、端正な顔は歪みなく無表情を貼り付けている。
いつもならわたしの仕事を確認してすぐに帰っちゃうのに。
……い、いや、帰っちゃうって、別に良いんだけど。
待っててもらう程の仕事でも、そんな関係でもないんだから。
だけど佐藤さんは無言のままじっと近くのデスクに座っている。
あ、そこ部長のデスクですけど…なんて言えるはずもなく。
今日は他に用事があるんだろうか。
というかいつも定時で部署からいなくなるけど、その後はどこで仕事をしているんだろう?
まさかわたしのためにわざわざ戻ってきてくれているわけじゃあるまいし。
あの佐藤さんに限ってそんなことをするはずがない。