佐藤さんは甘くないっ!

その日は久しぶりにミスを連発し、あの穏やかな部長を困らせた。

……だめだ。もう部下としても使えなくなってる。

佐藤さんがいないのは最近よくあることだったので、仕事の忙しさは変わっていないはずなのに。

頭がくらくらする。

まだ仕事を始めて二時間くらいしか経っていないのに、何度時計を見ただろう。

佐藤さんは今どこにいるんだろう。

最上さんと何を話しているのだろう。

そんなことばかり頭を過ぎる。

役立たず、最低、社会人としてなってない。

宇佐野さんが飲み物でも買っておいで、とわたしに息抜きを与えてくれた。

どこまでわたしは甘えているんだろう。

馬鹿だ。佐藤さんに捨てられても仕方ない。

申し訳ございません、と消え入りそうな声で呟いてオフィスから逃げ出した。

ふらふらと重い足取りで今朝も立ち寄った自販機コーナーに向かう。

なんだろう、さっきより頭が重い。

胃は相変わらずキリキリするけど、きっとストレスの所為だ。

ああ、あたまが、いたい。


「………っ、あ」


ガクン。

一瞬脳内に火花が散ったような感覚がして、視界が真っ暗になった。

身体の支えが突然利かなくなり、階段から足を踏み外したのが他人事のように思えた。

ああ、わたし、落ちるのか。

冷静な自分がそれを喜んでいる気がして、吐き気を飲み込むように息をした。




「危ないっ!!!!」
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